東日本大震災の津波から住民を守ろうとして殉職した警察官の父と後輩の警察官が、トラの親子の木工彫刻を宮城県警察学校に寄贈しました。「虎は千里を走った後でも子どもを思い千里を還ってくる」という故事にちなみ、警察官が危険な業務から必ず無事に戻れるようにとの思いを込めたといいます。

 宮城県名取市の県警察学校で行われた寄贈式。贈られたのは、ケヤキを彫って作った親子のトラの木工彫刻です。高さ約1.4メートルの大作です。

 作品を制作したのは、角田市の元木工職人佐藤宗男さん(73)と、大河原駅前交番所長の小野竜太さん(40)です。

 小野さんがチェーンソーを使ってトラを彫り上げ、警察官の魂を意味する警魂の文字を刻んだプレートを、佐藤さんが手掛けました。

 佐藤さんは、震災で長男で警察官の宗晴さんを喪いました。

 震災当時、岩沼署の増田交番に勤務していた宗晴さん。住民を津波から守ろうと沿岸部に向かい、犠牲になりました。32歳。1年5カ月前に警察官になったばかりでした。

 佐藤宗男さん「これからだってのに(警察官になってから)1年ちょっとでね、亡くなるとは思わなかったからね」

 佐藤さんが小野さんと出会ったのは2022年4月。大河原駅前の交番を訪れた佐藤さんに応対したのが、着任したばかりの小野さんでした。

 佐藤さんが宗晴さんの遺族と知り、小野さんは驚きました。

 小野竜太さん「私のぼんやりした記憶ではあったんですよ。名前とかどこに住んでいる方だとかは全然記憶は無かったんだけど、やっぱりそういう断片的なのが結びついて、あっ、ていうような感じですね」

 震災の翌月、大手精密機器メーカーの技術者から警察官の道に進んだ小野さん。きっかけになったのは、家業の木工所を手伝っていた宗晴さんの警察官への転身を紹介するテレビ番組だったからです。

 亡くなった宗晴さん、そして佐藤さんとの縁を感じ、一緒に彫刻づくりに取り組むことにしました。

 佐藤宗男さん「いつもだと悩みごと、こう彫りながらやっているんだけども、今回ね、無心で彫っていますわね。これはうちの息子から作ってくれっていう使命みたいなものを感じたもんだから。無心でやりましたよね」

 2022年10月から5カ月をかけ制作した彫刻は、県警察学校の職員用の出入り口に飾られます。

 小野竜太さん「(震災の)経験や残されたご遺族の気持ちというのも(警察官の)業務を通じながら共有して、語り継ぎながら、それを更に語り継いでいってほしい」

 佐藤宗男さ「皆さんに喜んでもらえて大変うれしいです。(若い警察官に)毎日見てもらって、無事にかえるようにしてほしいですね」