小さな生き物が、地球温暖化から私たちを救うかもしれません。東北大学のプロジェクトです。

 林の中へと入っていく一行。ある生き物を探しています。
 「ではここで、サンプルリンクを始めたいと思います」
 東北大学大学院の大久保智司特任助教。地面を掘り起こして探しているのは。
 「林の中らしい土だ」
 ただの土にしか見えませんが。
 東北大学大学院生命科学研究科大久保智司特任助教「N2Oというガスを消去する微生物を探しています。僕たちは地球冷却微生物と呼んでいます」

 土の中に含まれる目に見えない地球冷却微生物。この生き物が温暖化が進む地球を救うかもしれません。
 地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つに、一酸化二窒素=N2Oがあります。二酸化炭素と比べ大気中の濃度は低いものの、温室効果は二酸化炭素の約300倍です。地球温暖化を引き起こす寄与率は、温室効果ガス全体の5%を占めています。
 東北大学大学院生命科学研究科大久保智司特任助教「CO2とかメタンの発生を仮に抑えたとしても、N2Oの増加を抑えないと地球温暖化は止まらないと言われています」

 N2Oは、自動車の排気ガスなどにも含まれますが、最も排出量が多いのが実は農業です。人の活動による排出量の6割を占めると言われています。
 東北大学大学院生命科学研究科大久保智司特任助教「よく畑で使われる一般的な化学肥料です。ここに入っている窒素分が、N2O発生の原因になる」

 化学肥料には、農作物の育ちを良くする窒素化合物が含まれています。この窒素化合物が土の中で分解されるとN2Oに変化し、大気中に放出されます。
 東北大学大学院生命科学研究科大久保智司特任助教「農業をやるためには肥料を入れないとほとんどの場合は育ちませんので、どうしてもN2Oが出てしまうのが現状です」

地球冷却微生物

 農業から出るN2Oを減らそうと注目されているのが、地球冷却微生物です。
 東北大学大学院生命科学研究科南澤究特任教授「N2Oを削減する根粒菌で、ブラディリゾビウムオタワエンスという菌です。N2OガスをN2に還元して、温室効果ガスを減らすことができる」

 地球冷却微生物は特殊な酵素を持っていて、呼吸をするとN2Oを分解し無害な窒素ガス(N2)と水に返還してくれます。
 プロジェクトリーダーの南澤究特任教授は、マメ科植物の根にすみつく根粒菌と呼ばれる微生物の中にN2Oの分解力が高い種類がいることを発見。2013年に大豆畑で試験的に繁殖させ、畑から出るN2Oを3割削減させました。
 実際の圃場で、微生物によりN2Oを減らせることを実証したのは世界で初めてです。

 プロジェクトでは、よりN2Oの分解力が高い地球冷却微生物を探そうと一般の人たちに呼びかける試みも2021年にスタート。自分たちの住む地域で採取した土を研究室に送ってもらい、その中にいる微生物の種類や分解力などを調べました。

未知の地球冷却微生物も

 これまでに確認できた微生物は、35万種類です。全国から寄せられた約1000地点の土のうち41地点の土に、未知の地球冷却微生物がいる可能性が分かってきました。
 東北大学大学院生命科学研究科南澤究特任教授「地球上にいる微生物の99%が培養できていない。環境にいる微生物の無限の能力を我々研究者は感じていて、それを上手く引き出して我々の地球環境を守るために利用してあげようと」

 国連によると世界の人口は、現在の約80億人から2050年には97億人に増えるとみられています。人口を養うため食糧生産を増やすと肥料の使用も急増し、その中に含まれるN2Oも増えてしまいます。

 プロジェクトではN2Oの分解力が高い新種の微生物を見つけ、2050年には農業から出るN2Oを8割減らすことを目標にしています。
 東北大学大学院生命科学研究科大久保智司特任助教「人口増加、食糧増加を続けるほど、農地から出るN2Oは減らせない状況になるので、微生物を使って減らす方向で上手く動かないと、どんどん増えていくことになってしまいます」
 待ったなしの温室効果ガス対策。地球温暖化を食い止めるのは、目に見えない地球冷却微生物かもしれません。