岸田総理は19日、全国に35カ所、すべての国立公園で、宿泊施設の誘致などによる魅力向上の取り組みを進めるよう指示しました。

岸田総理 「国立公園制度100年を迎える2031年までに、地域の理解と環境保全を前提に、世界水準のナショナルパーク化を実現すべく、民間活用による魅力向上事業を実施してください」

政府は、2016年から検討を進めていました。

すでにモデル事業として、青森県の十和田八幡平国立公園で動き出しています。

放置されていた廃屋を撤去した跡地を、自然の中でさまざまな体験ができる滞在型施設を誘致する計画が、今年3月に決まりました。こうした開発をすべての国立公園に広げる方針ですが、国立公園は“自然公園法”で守られているため、簡単ではありません。

環境大臣は、「地域の理解」を強調します。

伊藤環境大臣 「高級リゾートホテルに限定したものではない。地域の理解そして、環境保全、これを前提に」

群馬・福島・栃木・新潟の4県にまたがる『尾瀬国立公園』。 尾瀬のふもとで40年前から営む尾瀬岩鞍リゾートホテル。家族連れに人気があり、インバウンドの観光客は1割ほどだといいます。このホテルでは、尾瀬国立公園の木道の廃材を使ってパンフレットをつくるなど、環境に配慮した取り組みをしています。

尾瀬岩鞍リゾートホテル・星野竜次さん 「お客さまの人数が多い場合は、ここで私どもがついてゴミの分別をお願いしている」

入山する観光客に山の注意事項を伝えることも続けています。

尾瀬岩鞍リゾートホテル・星野竜次さん 「観光客が増えればという期待もあるけど、尾瀬の自然を今まで我々が守っていた通り、守っていただけるのか、不安も正直ある」

森だけでなく、水にも恵まれている尾瀬は、その豊かな生態系から『特別天然記念物』に指定されています。ここには、車では来られません。

地元の人 「安易な旅行気分で来て、軽装で入って、事故が起こることは多分に考えられますよね」 地元の人 「観光客が増えるのは確かに良いことでしょうけど、以前はオーバーツーリズムで破壊されたのでいま、復元している。そうなっても困る」

群馬県尾瀬保全推進室長・吉田利佳さん 「いままで尾瀬は、水力発電の計画や、道路開設の話が立ち上がっては、自然保護活動が起こり、守ってきた歴史というか、思いのある方が多いので、かなり反対の意見をもらうことになると思う」

空前のハイキングブームのころ、困った住民が始めた『ごみ持ち帰り運動』は、全国に広がりました。

尾瀬の象徴“木道”も人の手でつくります。人々が泥んこになって生態系を守っています。

群馬県尾瀬保全推進室長・吉田利佳さん 「35ある国立公園が一律同じ状況ではない。周辺地域の実情に合った保護と活用の好循環が生まれるような仕組み作りを、それぞれの国立公園の特色を生かして検討を進めてもらえれば」

◆政府が『世界水準のナショナルパーク化』を目指す一方で、地方からは、突然のことに戸惑いの声も上がっています。国立公園の在り方が変わっていくことになるのでしょうか。

そもそも“国立公園”とは何か。位置づけを見てみます。 法律に基づき、国が管轄をしていて、“自然保護と持続可能な利用の両立”を掲げています。国立公園に“手を加える”場合には、申請や届け出が必要で、ホテルなどの建設といった開発行為を規制しています。

“国が保護”してきたものに“国が手を加える”と、これまでと逆方向に舵を切ったようにみえますが、その背景に何があるのでしょうか。

国立公園の問題に詳しい東京農工大学・土屋俊幸名誉教授に聞きました。

土屋教授は「きっかけは、2003年の“観光立国宣言”。政府がインバウンドを重視するようになりました。その後、国立公園を活用して、外国の富裕層に向けた宿泊施設を作り、外貨を落としてもらうことを目指すようになった」といいます。

自然保護との両立は可能なのでしょうか。

土屋教授は「自然保護を進めるうえで大事なのは、地域の人々の協力。宿泊施設だけでなく、自然保護のための施設の整備や施策も進むのであれば、メリットになる可能性はある。ただ、一律で“すべての国立公園に”というのは、容易ではない。利用客が増えれば、オーバーツーリズムの深刻化の問題も出てくるため、自然保護がより一層、求められる。そもそも国立公園は、現状でも、登山道の維持・管理や野生の動植物を守り切れているのかなど、問題はさまざま。問題をそのままにしたまま、“客を入れる”ことが、順番として先で良いのか疑問」と話します。