キャッシュレス決済が急速に普及しています。利用者にとってはポイントがたまるなどメリットは多いのですが、事業者にとってはそうではありません。進めるか引き返すか、舵取りが分かれています。
クレジットカードや電子マネー、コード決済など現金を使わずに支払うキャッシュレス決済の利用率は年々上昇し、宮城県では利便性を追求して完全キャッシュレス化を進めたカフェもあります。
JAMCAFE山路裕希代表「もう戻れないかもしれないですね。便利で」
一方でカード会社などに支払う手数料の負担が増え、現金払いのみに戻したスーパーもあります。
生鮮館むらぬし村主芳治店長「手数料で純利益というか利益が全部持っていかれるくらい」
利便性か手数料削減か、キャッシュレス決済が普及する裏で事業者が揺れています。
キャッシュレス決済の普及が急速にみ、大きく舵を切った店があります。
鈴木奏斗アナウンサー「こちらのお店。入り口にはカフェからのお願いと書いてあって、お支払いは完全キャッシュレスです。現金はご利用いただけませんと書かれています」
仙台市青葉区一番町にあるJAMCAFEでは、5年前に現金の取り扱いをやめキャッシュレス決済のみに移行しました。
JAMCAFE山路裕希代表「その当時はコロナ禍で手洗いや消毒に皆さん結構デリケートになっていましたし、思い切って踏み切ったという形になっていました」
コロナ禍で紙幣などを触る衛生面や、銀行が硬貨の両替に手数料を取るようになったことなど、現金を扱う負担が増したことで移行を決断しました。完全キャッシュレス化で作業効率も大幅に上昇しました。
JAMCAFE山路裕希代表「レジ締めの時に何十円合わないで何十円がどこに行ったかを探すことが仕事として増えますので、合わない金額のために30分掛かるとか。今はもうないですね。清算ボタンを押すだけで終わりですので、とにかく早いですね」
更に、商品ごとの売れ行きや日ごとの混雑状況などを自動でデータ化できることで、経営方針を立てる上でも役に立っています。
JAMCAFE山路裕希代表「いつもチェックしてこの月はこういう月になるだろうから人員はこのくらい必要で、逆にこのぐらいに抑えた方が良いなとか、このぐらいの仕入れはしてても良いのかなとか。ある程度着地点が分かることが、だいぶ経営する側としては助かりますね」
利用客「あまり元々、キャッシュレス派ではないので、実は。事前に入金して来たり短い時間で支払いできるのでこういった形も良いなと感じていました」
年々利用率が上昇しているキャッシュレス決済は、数年ペイペイなどのコード決済が急増し、今や日本人の決済方法の4割以上にまで拡大しています。
宮城県では、楽天野球団が2019年にホームスタジアムの全ての店舗を完全キャッシュレスにしたほか、これまでハウスカードのみだったみやぎ生協は、2022年に宮城県全ての店舗で一般のクレジットカードの利用を始め、4月からはスマホ決済も本格導入しました。
一方でキャッシュレス決済が浸透するなか舵を切った店もあります。仙台市若林区のスーパー生鮮館むらぬしでは、4月からクレジットカードを含む全てのキャッシュレス決済を廃止して現金払いのみに戻しました。背景にあるのが、カード会社などの決済事業者に支払う手数料の負担の増加です。
生鮮館むらぬし村主芳治店長「売上プラス消費税もプラスになった全部の金額にクレジットで3%掛かってくるので、結構大きいですね。手数料で純利益というか、利益が全部持っていかれるくらい」
クレジットカードは導入当初の1%から3%へ、コード決済はゼロから2%へ上昇し、1割ほどだったキャッシュレス決済の割合も4割ほどに高まり負担が増していました。
そこで決断したのがキャッシュレス決済の廃止でした。更に、新聞の折込ちらしの配布もやめ、浮いた経費を客に還元する方針に転換しました。4月は、店内の商品を1%割り引くキャンペーンを実施しました。
生鮮館むらぬし村主芳治店長「うちみたいなスーパーとかいっぱい今潰れている。青森県とか人口も減っているでしょうから、だから、次は我が身みたいな感じで。キャッシュレス決済の経費部分を削って、その分お客さんに安くした方がお客さんは喜ぶんじゃないかとみんなで考えて考えて出した感じですね」
利便性が下がり客足が遠のくことも心配されましたが、還元セールの効果もあってか買い物客はわずかに増加しました。
買い物客「すごくうれしいと思います。価格帯が安くなれば良いかなと思います」「最初はちょっと不便かなと思ったんですけど、手数料分を客に還元する意向もあるのかなと思ったので」「今までは現金が無くても何とかなっていたのが、ちょっと少ないとやめようかなとか。慣れれば大丈夫かなと思いますけども」
地域経済に詳しい七十七リサーチ&コンサルティングの田口庸友主席エコノミストは、物価高であらゆる経費がかさむ中、他の業種と比べて利益率が低い中小の小売業者や飲食店にとって手数料の負担は大きく、現金払いのみに戻す動きが出始めているといいます。
七十七リサーチ&コンサルティング田口庸友主席エコノミスト「キャッシュレス決済手数料を、他の例えば値引きであったりに使うことは1つの合理的な戦略。スーパーなどでは限られた商圏内のお客さんが一定の底堅い需要があって、食料品を買わなくて良いということはないから、決済方法によらず一定の需要があるので、キャッシュレス決済をやめても大きな取りこぼしがないと考えられます」
一方で宮城県経済全体で見ると、商圏人口が減り続けるなかインバウンドを取り込むためにキャッシュレス決済の普及は欠かせないと指摘し、足かせになる手数料を下げるためには利用者の増加が鍵になると話します。
七十七リサーチ&コンサルティング田口庸友主席エコノミスト「決済事業者も様々なインフラ投資やコストがかさんでいて、キャッシュレス決済の手数料が今、事業者だけが負担している構造を変えることが難しい状況にはあると。利便性を高めることによってキャッシュレス決済を使う人を増やしていけば、手数料を下げても採算がとれることになるので、そういう方向で行った方がむしろキャッシュレスが進むのかなと思います」