旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたとして宮城県の原告らが国に賠償を求めた裁判は、最高裁での審理が始まりました。仙台市の原告女性は「優生手術は私から幸せな結婚や子どもというささやかな夢をすべて奪いました。最高裁は早く全ての被害者が救われるような判決を出してください」と訴えました。
意見陳述を終えた原告らが記者会見を開いていて、仙台市の飯塚淳子さん(仮名・70代)さんが「まだ安心できない」と思いを語りました。
飯塚淳子さん(仮名)「いい判決であってほしいと思っていますがまだ分からないと思うので、どうなのかちょっと悩んでいます。ここまで長い道のりがありましたので、考えてみたら、すごくここまで来るまでが苦しかったし、他の方も提訴して裁判になって良かったなって思っています」
旧優生保護法は、終戦直後の1948年に制定され1996年まで施行された法律です。
第1条には「不良な子孫の出生を防止する」と明記され、障害のある子どもを「不良な子孫」と認定し、産まれて来ない方が良いと考える優生思想に基づいた法律でした。
この法律を元に全国で約2万5000人、宮城県は全国で2番目に多い1400人が不妊手術を強制されました。
最高裁は今回、仙台の他、大阪、東京、札幌の高裁で判決が出され上告された5件の審理を行いますが、高裁判決では判断が分かれています。
旧優生保護法が憲法に違反する法律かという点については、いずれの高裁も幸福追求権を保障した憲法13条や法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとして、憲法違反と判断しています。
問題となるのは、除斥期間と呼ばれる時の壁です。不法行為から20年が経過すると損害賠償請求権が消滅してしまう民法の規定です。
5件のうち仙台高裁以外の4件は、障害者への差別や偏見などで被害者が声を上げられない状況を踏まえ、除斥期間の適用を制限する判断を示しました。
これによって、20年以上前に手術を受けた原告も損害賠償が可能となります。
一方、仙台高裁は、除斥期間は被害者の事情で左右されないなどとして、手術時から20年が過ぎ損害賠償請求権は消滅したと判断しました。
原告側の救済を阻む除斥期間という時の壁について、法律の専門家は「最高裁は除斥期間を適用せず、広い救済ができる判断をするべき」と指摘しています。
同志社大学御幸聖樹教授「除斥期間の適用を制限して、損害賠償を認める方の解釈をすべき」
旧優生保護法の問題に詳しい憲法学者、同志社大学の御幸聖樹教授です。除斥期間を適用せず、被害者の救済を図った判例もあると指摘したうえで、画一的に判断せず被害者の事情を考慮すべきと話します。
同志社大学御幸聖樹教授「違憲の疑いがある法律を国が作って偏見や差別を助長した面があり、訴訟提起を果たして被害者の方ができたのか。広い救済、創造的な解釈を最高裁がすべきではないか」
全国で裁判を起こしている原告39人のほとんどは70代以上で、高齢化が深刻です。このうち2月までに6人が亡くなり、宮城県でも60代女性1人が亡くなっています。